「ノマドになりたいんです!」と聞くことが増えたので、スキルがない状態で、ノマドになるって、「デジタル日雇い労働」になるから、憧れているような自由はないと思うねんけどなぁ……と思い、母からの手紙という形式で想いを形にしてみました。
拝啓
「来月で会社を辞めて、海外に行ってノマドワーカーになる」
あなたが昨夜、目を輝かせてそう言ったとき、母さんは何も言えなくなってしまいました。 見せてくれたスマホの画面には、青い海とパソコン、そして「スキルなしでも1ヶ月で人生が変わる」という楽しそうな広告が踊っていましたね。
今の会社が辛いのは知っています。毎日満員電車に揺られ、遅くまで残業して、心も体もクタクタなのも見てきました。だから、あなたが「自由」に憧れる気持ちは痛いほど分かります。
でもね、母さんはやっぱり賛成できません。 古い人間の戯言(たわごと)だと思うかもしれないけれど、どうか一度だけ、母さんの話を聞いてちょうだい。
「ノマド」は仕事の名前じゃないのよ
あなた、「ノマドになる」って言うけれど、それって結局、何屋さんになるの?
母さんが調べた限り、「ノマド」っていうのは、Webデザイナーとかプログラマーとか、手に職を持った人が「たまたま海外にいる状態」のことを言うんでしょう? あなたが今、日本でその仕事でご飯を食べられていないのに、飛行機に乗って場所を変えたからといって、急にプロになれる魔法なんてないのよ。
「ゼロ」に何を掛け算しても、答えは「ゼロ」のまま。 武器も持たずに戦場に行くようなあなたの背中を見るのが、母さんは怖いの。
それは「自由」じゃなくて「日雇い」じゃない?
「未経験でもできる仕事があるから大丈夫」って、あなたは言いましたね。 でも、誰にでもできる仕事って、誰でもできるお給料しか貰えないってことじゃないの?
物価の安い国なら、その安いお給料でも生きていけるのかもしれない。 でもね、朝から晩までパソコンの前で、単純な作業を繰り返して、明日のご飯代を稼ぐだけの生活……。 それが、あなたが夢見た「自由な生活」なの?
それは海外で暮らす「デジタル日雇い労働」だと、母さんには思えて仕方がないのよ。
「教えてもらう」つもりで行ってはいけないわ
あなたがよく言う「現地で仕事をしながら成長したい」という言葉。 厳しいことを言うようだけど、それはお金を払って学校に行く生徒のセリフよ。
仕事っていうのはね、お金をいただくことなの。 顔も見えない、遠い国にいるあなたに仕事を頼む人がいるとしたら、それはあなたが「即戦力」だからでしょう? 「未経験ですが頑張ります」「教えてください」なんて甘えている人に、大切なお金を払う社長さんがどこにいるの。
会社という守られた場所にいる今ですら苦労しているのに、誰も守ってくれない海外で、いきなり一人前として振る舞えるの?
帰ってきたとき、あなたの席はあるの?
貯金なんて、あっという間になくなるわ。 お金が尽きて、夢破れて日本に帰ってきたとき、あなたはどうするつもり?
「数ヶ月、海外でパソコン作業をしていました」 そう履歴書に書いても、企業の人には「遊んでいた」としか思われないかもしれない。その時、あなたは同級生よりも歳をとって、職歴に穴が開いた状態なのよ。
結局、実家から日本のアルバイトに通うことになるなら……今の苦労となんら変わらない、いえ、もっと辛い現実が待っているんじゃないかしら。
急がば回れ、よ
母さんはね、あなたの夢を否定したいわけじゃないの。 世界中どこでも働けるような、そんな逞しい男になってくれたら、こんなに誇らしいことはないわ。
だからこそ、順番を間違えないでほしいの。
まずは日本で、今の生活の中で、歯を食いしばってスキルを身につけなさい。 「あなたが南極にいても仕事を頼みたい」ってお客さんに言われるくらい、実力をつけなさい。 ノマドになれるのは、それからのはずよ。
「逃げる」ために海を渡るんじゃなくて、 「勝負する」ために海を渡ってほしい。
それが、母さんの願いです。 今夜のご飯はあなたの好きなハンバーグにしておくから、もう一度だけ、頭を冷やして考えてみてね。
母より

